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技術士(河川・砂防及び海岸)受験に役に立つブログNO70

今日は昨日の続きで「砂防事業に関する費用便益分析」の具体的な手法についてです。

 

■詳細な費用便益の検討
砂防事業における費用便益分析を行う場合の基本的な流れは、「便益の計測」、「費用の算定」、「費用便益分析」からなる。

〇便益の計測
「想定氾濫区域の設定」、「被害軽減額の算出」、「年平均被害軽減額の算出」及び「総便益の算出」からなる。
・想定氾濫区域の設定
対象とする評価単位(水系・山系)において、土砂・洪水氾濫による想定氾濫区域と、土石流による想定氾濫区域により設定する。
・計測する被害
1) 直接被害の対象資産
直接被害の対象資産は、「家屋」「家庭用品」「事業所償却・在庫資産」「農漁家償却・在庫資産」「農作物」「公共土木施設等」「人身被害」である。
家屋→居住用及び事業所用の建物
家庭用品→家具・家電製品・衣類・自動車等
事業所償却・在庫資産→工作機械、事務用機器などの償却資産及び在庫資産
農漁家償却・在庫資産→農機具等の生産設備及び在庫資産
農作物→水稲および洪水期における畑作物
公共土木施設等→公共土木施設(道路、橋梁、下水道及び都市施設)
農地及び水路等の農業用施設
人身被害(逸失利益
※人身被害(逸失利益)については、土石流氾濫による被害において見込むものとし、
土砂・洪水氾濫では人身被害は見込まない。
2) 対象とする間接被害
間接被害の対象は、直接被害から波及的に生じる被害のうち、便益の評価が可能な
被害とする。
営業停止損失(事業所及び公共・公益サービス)
交通途絶被害
発電所被害
観光被害
応急対策費用(家計、事業所及び国・地方公共団体
人身被害(精神的損害)
※人身被害(精神的損害額)及び交通途絶被害については、土石流氾濫による被害において計上するものとし、土砂・洪水氾濫では計上しない。
・便益の算定
砂防事業の便益は、事業実施の有無による被害額の差分より求める便益に評価期間末における砂防設備等の残存価値を加算して評価期間における総便益を算定する。
事業を実施しない場合と実施した場合の被害額をもとに、事業の実施により防止し得る被害額を便益として算定し、評価期間末における砂防設備等の残存価値を加算したものとする。
・評価対象期間における総便益
評価対象期間における年便益の総和及び評価対象期間終了時点における残存価値を加算し、総便益を算定する。
〇費用の算定
費用は、事業の特性を踏まえ、用地費、補償費、建設費等、適切な費用の範囲を設定し、適切な手法に基づいて現在価値化を行う。
対象とする費用は、事業実施期間内の総建設費と、供用期間内の維持管理費を対象とする。費用は、評価年度の価値に現在価値化した上で、評価期間の費用を算定する。

〇経済性の評価
比較する費用と便益
経済性の評価にあたっては、総費用とその投資に応じた総便益を比較するものとする。
便益と費用の比(B/C)により評価する方法(CBR 法)を分析評価方法の基本とし、便益と費用の比が1 を上回った場合に経済性の効果があると判断する。
・費用便益分析の主な評価指標と特徴
感度分析→残事業と全体事業の各々について、残事業費、残工期、資産を個別に±10%変動させて費用便益比を算定し、感度分析を行う。

〇今後の課題
砂防関係事業に係る費用便益分析については、本格的に導入されて十分な年月を経ておらず、今後の充実を図るための課題が残されている。
1)被害推定手法の高度化
1データの蓄積
土砂災害は、地形・地質条件、降雨条件など様々な要因により、豪雨時、地震時、火山活動時等に発生する。災害実態調査や流砂水文観測等を継続し、砂防関係事業に係る費用便益分析を、より適切に評価できるよう各種調査が継続され、データの蓄積が図られる必要がある。
2評価手法の高度化
現時点では十分に被害規模等を想定できない現象もある。例えば、流木による被害や中長期的な土砂流出による被害など、砂防事業により効果が期待できる災害形態については、今後、評価手法を構築していく必要がある。
また、気候変動による災害の激甚化のおそれが高まるなど、計画規模以上の災害の発生が高まる危険性が指摘されている。このようなことから、計画規模以上の災害に対する減災にかかる便益やソフト対策の便益を評価する手法についても検討していくべき。
2) 評価手法の改善
「原単位の精査」「便益計測の対象とする効果項目の見直し」「新たな視点に立った評価手法の検討」などを進め、今後は、事業を行ったことによって被害軽減効果があったことを検証して、データを積み重ねることにより、現在の評価手法の一層の精度向上に努める一方で、砂防関係事業の実施されている地域の実態を今一度幅広い視点で俯瞰し、災害時の当該被災地の実質的な被害の防止・軽減に加え、周辺地域を含めた社会的な混乱回避、国土保全といった役割等も加味した砂防関係事業の評価手法について検討していく必要がある。

 

今日のコラム

牛伏川階段工に行ってきました。

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自然に溶け込んだ牛伏川階段工

牛伏川階段工は、1918年(大正7年)に完成した砂防施設です。その概要は、延長141mの流路に19基の床固工が設置されコンクリートを使用せず、空石積みなどの日本の伝統的な技術により作られています。この石積み技術による建造物は、技術的・歴史的に高い評価を受け、平成24年7月9日に重要文化財に指定されました。
明治~大正時代の、防災施設が今でもしっかりと地域を守り続けています。自然に溶け込み、美しさを感じられる土木遺産です。
坂の上の雲日露戦争を学んでいますが、ちょうど同じ時期に行われた事業です。9万人近く犠牲にしたこの戦争よりも、この土木構造物は、確かな成果を残しているのかもしれませんね。